中国の南西部、標高5,000メートルに位置する達古氷河(Dagu Glacier)で、南京大学の Zhu Bin(朱斌)教授と彼の研究チームが氷河の融解を防ぐため、白いシートを氷河上に敷き詰めています。これはまるで「ダビデとゴリアテ対決」のような必死な戦いです。ただし、敵は強靭な敵巨人ゴリアテではなく、氷河の融解を引き起こす根本的な問題である「地球温暖化」です。
達古氷河は雪山と原生林に囲まれ、さまざまな動植物が生息しています。この氷河は1992年に衛星画像によって発見されたばかりで、2010年に観光客に開放されて以来、毎年約20万人が訪れる人気の観光地となっています。観光客の流入は達古氷河周辺の村々に恩恵をもたらしているが、氷河の将来はどうなるのかが懸念されています。
新たに発見された達古氷河は、他の氷河と同様に、気候変動による融解の危機に直面しています。気候変動の影響により、氷河は驚異的な速さで融解しており、何百万年もの歳月をかけて形成された達古氷河も、わずか数十年でその面積の70%を失いました。氷河の融解は一度進行し始めると、元に戻すことができないため、この状況は極めて深刻です。この地域の生態系は山岳コミュニティにとって重要であり、保護するために対策が急がれます。
Zhu Bin(朱斌)教授は、材料の特性や構造を専門的に研究している材料科学者です。彼は持続可能な解決策が見つかるまでの緩解策として、ナノ材料実験を推奨しています。そのため、環境にやさしい酢酸セルロースに基づいた、放射冷却性能を持つナノ薄膜材料の開発に取り組んでいました。
「この技術は、直射日光の熱を氷河から遠ざけると同時に、氷河自身のエネルギーを多孔質材料を通して外部に放射することで、温度を低く保ち、融解速度を遅らせることができます。」とZhu Bin(朱斌)教授は説明しています。
世界各地では同じ実験方法で、氷河をシートで覆い氷河の融解速度を遅らせようとしている研究者が多数います。ただし、成功率はまちまちで、適正な素材が見つからない状態です。 Zhu Bin(朱斌)教授が推奨している新素材は太陽光反射率が92%に達することであり、他の材料の反射率は約70%に過ぎないと述べています。この技術は熱を大気外に放射することができ、さらに冷却効率を向上させます。
雪と氷、さらにはアイスクリームを使った実験データを元に氷河での実験を始めます。
「対照実験では、約200平方メートルの氷河をシートで覆ったところその結果、融解速度が3〜4倍遅くなりました。非常に奮い立たせる結果になりました。」
2022年8月、南京大学の研究チームは達古氷河で大規模な実験を実施し、これまでで最大の氷河保護活動を行いました。テンセントは、「持続可能な社会的価値創造戦略」を基に積極的に研究を協力し、資金と実務支援を提供しています。
テンセントのカーボンニュートラル研究室の責任者であるHao Xu(許浩)博士は、次のように述べています。「近年は極端な異常気象が頻繁に発生しています。気候変動に対処するために、持続可能な緩解策の研究が急務になっています。しかし、氷河が驚くべき速さで溶けているため、対策が非常に難しくなっています。」
「達古氷河の実験には、重要な社会的・科学的価値があります。この実験は、テンセントの経営理念である“Tech for Good”という考え方と一致し、社会に革新的なイノベーションをもたらす役割を果たしています。この考えの一致が、テンセントがこのプロジェクトに貢献するきっかけとなりました。
「氷河の融解は生態系全体に大きな影響を与えます。花、動物、湖、そしてあらゆる生物に影響が及びます。氷河と環境を保護するために、南京大学は新しい素材の開発に取り組んでいます。このプロジェクトがより多くの人々に知られることで、環境保護の必要性に対する意識を高めることができるでしょう。」達古冰河管理局のShihai Huang(黄世海)局長は、この研究が非常に意義深いものであると語りました。
今年6月、Zhu Bin(朱斌)教授のチームは達古氷河の頂上に10か月ぶりに戻り、約400平方メートルの放射冷却材料を再び敷設し、データの測定を開始しました。
達古氷河に住む現地のコミュニティと村人は、重い資材やその他の機材を運ぶためにチームを支援してくれました。
「達古氷河は私たちの生命線です。氷河は私たちを育ててくれました。」と先住民の村人、Lie Ganze(列干澤)は述べます。
高地での作業は、研究チームにとって体力的な試練でした。低温と高度のため、南京大学のチームの何人かの研究者は高山病を経験しました。彼らは酸素ボンベを持ち歩き、雪解けなどの困難を乗り越え、作業時間を限界まで延ばしました。
山頂では、素材を氷河の滑りやすい表面にしっかり固定するため、研究者たちは氷に深い穴を開けました。1つの穴を開けるのに30分もかかり、その同時に他のチームメンバーは新しい素材の効果を測定するために測定ツールを設置していました。研究者たちはさらに、氷河の融解速度を計測するために開けた穴に観測機器を指し、氷の厚さをレーダーでスキャンしました。
「このプロジェクトは、学際的なコラボレーションの最高の実例です。」と、初めて実験室の外で研究を行うZhu Bin(朱斌)教授は述べました。
「私のこれまでの実験はすべて実験室で行われてきました。実験室以外でこれほど大規模な実験を行ったことはないです。様々な分野の専門家がチームを組み、シームレスに協力し合ってこのプロジェクトを軌道に乗せたことは注目に値します。」
放射冷却材料の効果を検証するには通常3年から5年かかります。実験の結果が良好であり、かつ材料の生産コストが合理的な場合、このナノ素材のシートは達古氷河や世界中の他の氷河の保護において鍵となる役割を果たすでしょう。また、この材料は産業分野にも応用の可能性があるかもしれません。
「材料科学の観点では、物質は有効利用できる道具として開発されるべきである」という考えがあります。
科学研究は実験を続ける一つの要因に過ぎません。
「私たちは過去数年間、地元コミュニティから多大なるサポートを受けてきました。氷河の保護は、生態系全体と地元の人々の生活を支える非常に重要な取り組みです。」
「現時点のデータは、放射冷却材料が効果的な解決策であることを示唆していますが、これは一時しのぎに過ぎません。氷河の融解の根本的な原因は地球温暖化ですので、温室効果ガス排出量を削減することが氷河を救う唯一の方法です。世界中で気候変動問題に積極的に取り組み、地球温暖化に対処するために行動を起こすべきです。」と教授は語り、この研究についてまとめました。
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